四
 
  深夜。
  薄く月明かりの差し込む修練場に坐し、私は一人瞑目していた。
  気を広く持ち、不安を抑え込むためだ。
  前のときもこうだっただろうかと自問する。正直なところ、あまりよくは憶えていない。だが、きっと同じように不安だったのだろうと思う。
  あの男を倒すために身に着けた技を、私は個人的な欲望のために使おうとしている。それが後ろめたくないとは云えない。
  それでも、もう後戻りは出来ない。父のことをもっと知りたい、もっと父の残り火に触れていたいと、そう願ってしまったのだから。
  前向きとはとても程遠く、過去にしがみつかずにはいられない。これは私の紛れもない弱さであり、愚かさだ。
  でも、構わない。弱くても愚かでもいい。私は、私の望むことをしよう。どうしたって私には、そうすることしか出来ないのだから。
  僅かばかりの風が吹いて、軒先に下げた風鈴を小さく鳴らした。
  旅行きの支度は既に済んでいる。書置きも部屋に残してきた。黙って行くのは心苦しいけれど、云えば必ず引き止められる。それを振り払える自信などない。
  そろそろ行こう。そう思い、立ち上がる。
  修練場を抜け、家の門を潜る。
  空を見上げれば、とても蒼くて、大きな月。
  ふと、昼間見たヒカリの笑顔を思い出した。
  いつか私も、あんなふうに笑えるときが来るのだろうか?
 
  そんなことを考えて、私は少しだけ口元を緩めた。
 
 
                                      了
 
 
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  おまけ

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